路地のリビング
東京は上野桜木の路地に残る3軒の古い民家。そのうちの1軒に家族で暮らす建築家の瀧内未来さん。自宅で食を始めとしたワークショップを催せば同世代が集い、近所の多世代の人たちとの井戸端会議も弾む。そんな「まちに開いた」暮らしとは。
自然と人が集まる路地は、みんなのオアシス
昭和の面影を残す木造民家が3軒並ぶ袋小路。「ただいまー!」と言いながら、元気に路地を駆けてくる子どもたちを迎えるのは、井戸端会議中の母・瀧内未来さんやその友人、近所に住む老若男女。一瞬でその場がわっと賑やかになる夕暮れ時、お年寄りたちは「近くに子どもがいると楽しいわ」と目を細める。
ここは台東区上野桜木。東京でも、古くから文人や芸術家が暮らしていた土地で、当時の面影を宿す建物がまだ見られる。建築家の瀧内未来さん一家はそんな日本の古き良き佇まいを残したいと、この地に暮らし始めた。
以前はマンションに住みながら、子育てをし、建築家としての仕事もこなしていた瀧内さん。しかしほとんどの用事が家の中で済んでしまう日常に、息が詰まっていたという。「子育ての相談をする人もいませんでした。育て方が合っているのかわからず、娘を自分のコピーにしているのでは、と不安だったのです」。
そんな日々を過ごして7年。いつしか子どもたちに日本の家屋での暮らしを肌で感じてほしいと思うようになり、付近の物件を探していたところ、出会ったのがこの3軒並びの、築80年の民家。ちょうど家主の塚越商事㈱とNPO法人『たいとう歴史都市研究会』とで、地域に開かれた飲食や物販店、住居を含む施設への再生を検討していたところだった。そこに瀧内さんは、さらにさまざまな人が活用できる座敷なども含めた複合施設とする提案を行う。もちろん住むのは、瀧内さんだ。日々の暮らしを営みながら、路地を、そして地域を見守る。案は採用され、訪れた人たちが路地で出会い、つながり、広がりが生まれていけばとの思いを込めて、この場所は、「上野桜木あたり」と名づけられた。