火と野菜のフォークロア
山形・伝承野菜農家“森の家”から
先祖代々受け継がれるその土地特有の“伝承野菜。“森の家”という屋号を持つ佐藤家に受け継がれていたのは「甚五右ヱ門芋」という芋の種。古い民家を改修した住まいには、暖を採り、郷土料理を発信する火が灯る。
昔からこの土地で守られてきた作物や、火のある風景を残していきたい―。そう語る佐藤春樹さんは、山形県北部の真室川町で、伝承野菜農家「森の家」を営む。伝承野菜とは、代々受け継がれてきたその土地特有の種でつくる作物のことだ。
佐藤さん一家の住処は、田園と森の緑が目に鮮やかな小さな集落に佇む古民家。夕陽が傾いた頃、家の薪ストーブにポッと火がつく。薪ストーブから立ち昇るのは、里芋と栗のグラタンの香ばしい香り。和室の囲炉裏にも火が入り、「たくさん食べてってー」と郷土料理の芋煮を家族や友人と囲む。その里芋こそが、春樹さんがつくっている伝承野菜「甚五右ヱ門 芋(じんごえもんいも)」だ。
夜勤の仕事をしながら、昼間は農家の祖父を手伝っていた春樹さん。副収入になれば、という程度の気持ちで山菜や漬け物を売ったり試行錯誤していたがどれもうまくいかず。けれども、やりがいを感じ始めていた。