と主人の家に伝わる遺品を、子や孫に伝承する場所が生まれたことに至って、喜んでくれるようになった。その茶室の平ひら床どこ(高くせず、板を張るのみの床の間)に、くだんの桜の地板が完璧な形で収まってくれたのである。「松・欅・桜の木に古材なし」という島村さんの古材倉庫に松の床板を探しに入って、再び思い出の古板に再会できたのは偶然のこととは思われなかった。平3畳の茶室の正面に畳面すれすれに平床を敷き、中心やや右寄りに赤松面皮の床柱を立て、床脇に古欅の地袋を納め、古物の落とし掛け、古欄間と障子でまわりを囲むと、見立てた通りすがすがしい茶室が誕生した。まったく別の場所から、由来の異なる古物を一ひとところ所に集め、それぞれのものの積層する時間が一体に融け合う時、そこに居合わせるヒトは見るもの、見えざるものを含め、五感をもって素直に場の出来事を直覚することが可能となる。それは、場にあらわれるそれぞれのモノたちの気配の手触りであり、その密度差や光と影の分布が、空気の中を流動する波動としてヒトに伝わってくる。欧州、日本時がつくる美の世界 私は1970年にヨーロッパに留学した。そのおかげでたくさんの建築や芸術にかかわる友人を得ることができた。彼らは、原則として時間を直線の流れとしてとらえ、そのため歴史上経験された時間は二度と繰り返せないものと考えている。したがって、歴史的文化遺産である建築、都市、景観は、現代の判断で破壊することはいっさいすべきでなく、各時代の技術の再現によって修復すべきだと考えている。さらに各時代の保全すべき建造物は現代社会のために幅広い用途で活用すべきであり、その場合の法制度もそれがつくられた当時のものの正当性を尊重する。つまり、日本でいえば木造伝統構法に、あとでつくられた建築基準法を当てはめるようなことはしないのである。また、ベルギーの例では、今話題になっている消費税率のことでも、新しい建物をつくるための税率21%に対して、古い建物を修復する場合は、6%しか消費税を納めなくてもよく、古い建物を保全再生する行為を社会的に支援している。市民側でも、持ち金にハワイに古民家を移築再生する。建て方で采を振る島村葭商店の島村信義さん、綱を引くのはハワイのビルダー、ロビンソン氏ら。異国の地に日本の古材でできた家が建つ。写真2点/文中にある「運命の床板」は、必然によって四国で床板になった。36
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